七里ヶ浜の哀歌 三角錫子 真白き富士の嶺(ね)緑の江ノ島 仰ぎ見るも今は涙 皈らぬ(かえらぬ)十二の雄々しきみたまに 捧げまつる胸と心 ボートは沈みぬ千尋の海原 風も浪も小さき腕に 力も盡(つ)き果て呼ぶ名は父母(ちちはは) 恨は深し七里ヶ浜辺 み雪は咽(むせ)びぬ風さへ騒ぎて 月も星も 影をひそめ みたまよ何処に迷いておわすか 帰れ早く母の胸に みそらにかがやく朝日のみ光 暗に沈む親の心 黄金も宝も何しに集めん 神よ早く我も召せよ 雲間に昇りし昨日の月影 今は見えぬ人の姿 悲しさ余りて寝られぬ枕に 響く波のおとも高く 帰らぬ浪路に友呼ぶ千鳥に 我もこいし失せし人よ 尽きせぬ恨みに泣くねは共々 今日も明日もかくてとわに |